「昔のようにボールを追いかけたいけれど、膝がもたない」
「定年後の運動不足を解消したいが、ジムの単調な運動は続かない」
「チームスポーツの熱狂をもう一度味わいたい」
もしあなたが60代を迎えて、このような身体と心の葛藤を抱えているのなら、この記事はあなたのために書きました。今、日本中で静かなブームになりつつある「ウォーキングフットボール」をご存知でしょうか。「走ってはいけないサッカー」と聞いて、「そんなのぬるくて面白くないだろう」と思ったら大間違いです。
健康運動指導士として断言しますが、これは単なるレクリエーションではありません。脳と身体を同時に鍛える、医学的にも理にかなった「最強のアンチエイジング・スポーツ」なのです。
この記事では、まだあまり知られていないウォーキングフットボールの真の魅力と、60代の身体にどのような劇的な変化をもたらすのか、専門的な視点を交えて分かりやすく解説します。読み終える頃には、あなたはきっと、近所の開催場所を検索し始めているはずです。
そもそも「ウォーキングフットボール」とは?(走ったら即反則!)

- 走ったら即反則!JFA推奨「日本独自ルール」の優しさ
- サッカー経験者ほど苦戦する?「早歩き」の奥深さ
- 接触禁止・ヘディング禁止が生む「究極の安全性」
- 審判じゃない?「ピッチマネージャー」が作る笑顔の空間
走ったら即反則!JFA推奨「日本独自ルール」の優しさ
ウォーキングフットボールの最大にして絶対のルール、それは「全員が歩くこと」です。これは単なるスローガンではなく、競技の根幹をなす鉄の掟です。日本サッカー協会(JFA)が推奨するルールでは、いかなる局面でも走ることは禁止されています。具体的には「常にどちらか片方の足が地面についていること」が求められます。
競歩をイメージしていただくと分かりやすいでしょう。ボールを持っていようがいまいが、相手を追いかけるときも、ゴールを決めて喜ぶときさえも、走ってはいけません。もし走ってしまうと、相手チームにフリーキックが与えられます。
このルールのおかげで、スプリント力や持久力といった「身体能力の差」が驚くほど無効化されます。20代の若者と60代のシニアが同じフィールドに立っても、スピードでぶち抜かれることがないのです。これは従来のスポーツではあり得なかった現象です。サッカー未経験者や運動が苦手な方でも、「足が遅いから迷惑をかける」という心配が一切不要なのが、このスポーツがシニア層に爆発的に普及している理由の一つです。
サッカー経験者ほど苦戦する?「早歩き」の奥深さ
面白いことに、ウォーキングフットボールで最も苦戦するのは、実は「昔サッカーをやっていた人」です。ボールが目の前に転がってきたり、絶好のスペースが空いたりすると、長年の条件反射で身体が勝手に走り出そうとしてしまうのです。
「おっとっと!」と急ブレーキをかけ、苦笑いしながら早歩きに切り替える。そんなシーンが試合中に何度も見られます。この「走りたい本能」を理性で抑え込むプロセスが、実は非常に高度なメンタルトレーニングにもなっています。
一方で、早歩きの技術は奥が深いです。走れない分、ポジショニング(位置取り)の重要性が増します。いかに効率よく歩き、パスをもらいやすい位置に移動するか。これは体力ではなく「頭脳」の勝負です。そのため、体力が落ちてきた60代の方でも、長年の人生経験で培った「予測能力」や「駆け引き」を駆使して、若者を翻弄することができます。この「大人の余裕」で戦える感覚こそが、シニア層を虜にしている要因です。
接触禁止・ヘディング禁止が生む「究極の安全性」
60代の方がスポーツを始める際、一番の懸念材料は「怪我」でしょう。特にサッカーは激しい接触プレーのイメージがあり、骨折や打撲のリスクを恐れて敬遠されがちです。しかし、ウォーキングフットボールは「ノンコンタクト(接触禁止)」が厳格に定められています。
相手のボールを奪いに行く際、身体をぶつけたり、足を絡めたりすることは一切禁止です。ボールを取りに行くこと自体が制限されているルールもあり、基本的には「パスカット(相手のパスの途中でボールを奪う)」が守備のメインになります。
さらに、ヘディングも禁止です。ボールを高く蹴り上げること自体が反則(高さ制限としてゴールの高さまで、あるいは腰の高さまでなど規定あり)とされていることが多く、飛んでくるボールと競り合って転倒するリスクも排除されています。
これらはすべて「今日集まった仲間が、怪我なく笑顔で家に帰る」ための配慮です。激しいタックルに怯えることなく、純粋にボールを蹴る楽しさだけを抽出したスポーツ、それがウォーキングフットボールなのです。
審判じゃない?「ピッチマネージャー」が作る笑顔の空間
通常のサッカーには、厳格にルールをジャッジする「審判(レフェリー)」が存在しますが、ウォーキングフットボールには代わりに「ピッチマネージャー」と呼ばれる役割の人がいます。
ピッチマネージャーの役割は、単に反則を笛で吹くことではありません。「今のプレー、ナイスですね!」「ちょっと早くなっちゃいましたね、次は気をつけましょう!」と声をかけ、フィールド全体の雰囲気を和ませ、楽しさを演出することです。
もし誰かが熱くなって走ってしまったり、強い言葉を使ったりした場合は、ピッチマネージャーが優しく介入してクールダウンを促します。勝敗よりも「楽しむこと(エンジョイ)」を最優先にする。この文化が徹底されているため、初めて参加する方でも萎縮することなく、和気藹々とした輪に入っていくことができます。60代の方にとって、殺伐とした勝負の世界ではなく、こうした温かいコミュニティとしての機能も大きな魅力となっています。
健康運動指導士が60代にこそ「推奨」する医学的理由

- 脳トレ効果が凄い!「デュアルタスク」で認知症予防
- 意外とハード?「前脛骨筋」を刺激して転倒防止
- 膝・腰への負担は最小限でも「心拍数」はしっかり上昇
- ゲートボールとは違う「動的」な刺激がホルモンを活性化
脳トレ効果が凄い!「デュアルタスク」で認知症予防
健康運動指導士の視点から見て、ウォーキングフットボールが60代に最適である最大の理由は、医学的に「コグニション(認知)」への効果が極めて高い点にあります。
プレー中、皆さんは「ボールを操作する(運動課題)」ことと、「周囲の状況を見て、次のパスコースを考える(認知課題)」という2つのことを同時に行います。これを専門用語で「デュアルタスク(二重課題)」と呼びます。
最近の研究では、単に計算ドリルをするよりも、身体を動かしながら頭を使うデュアルタスクの方が、脳の前頭葉を活性化させ、認知症予防に効果的であることが分かっています。「走ってはいけない」という制約があることで、脳は常に「抑制」の指令を出し続け、同時に戦術を組み立てるという高度な処理を行っています。
「あそこにパスを出そう、でも相手がいる、いやこっちが空いた、でも走っちゃダメだ」
この連続的な思考の切り替えは、脳にとって最高のトレーニングです。実際に参加された方からは「終わった後に心地よい頭の疲れがある」「日常生活でも物忘れが減った気がする」といった声が多く聞かれます。
意外とハード?「前脛骨筋」を刺激して転倒防止
ウォーキングフットボールは、「歩くだけだから楽そう」と思われがちですが、実際にやってみると体のいろいろな筋肉をしっかり使う、ちょうど良い運動になります。特に動きやすいのが、すねの前側にある「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」という筋肉です。
ウォーキングフットボールには「走ってはいけない」というルールがあるため、速く動こうとすると競歩のような歩き方になります。このとき、かかとから着地してつま先方向へ体重を移しますが、この動きを支えているのが前脛骨筋です。普段の散歩よりも、この筋肉がしっかり働く可能性があります。
前脛骨筋は、つま先を上げるときに使われる大切な筋肉です。ここが弱くなると、足が上がりにくくなり、ちょっとした段差にもつまずきやすくなります。高齢者の転倒は骨折につながりやすく、寝たきりになるリスクもありますので、つまずき予防はとても重要です。
ウォーキングフットボールは前脛骨筋を使う動作が多いため、続けることでこの筋肉が活動しやすくなる可能性があります。ただし、「鍛えられる」「リハビリになる」と医学的に断定できるわけではありません。それでも、楽しみながら体を動かせること、全身の血流が良くなること、仲間との交流が生まれることなど、健康づくりに役立つ要素はたくさんあります。
無理なく続けられて、生活の中にハリも生まれるウォーキングフットボール。気になる方は、まずは見学から始めてみてはいかがでしょうか。
膝・腰への負担は最小限でも「心拍数」はしっかり上昇
ジョギングや通常のサッカーは、着地のたびに体重の数倍の衝撃が膝や腰にかかります。軟骨がすり減り始めている60代の方にとって、これは大きな負担です。しかし、ウォーキングフットボールは常にどちらかの足が地面についているため、着地衝撃が非常に少なく、関節への負担が最小限に抑えられます。
それにもかかわらず、運動量は決して低くありません。1試合(例えば10分程度)の間、休むことなく歩き続けるため、有酸素運動としての効果は抜群です。万歩計をつけて参加すると、2時間のイベントで1万歩近くいくことも珍しくありません。
心拍数も、脂肪燃焼に効果的なゾーン(最大心拍数の60〜70%程度)で維持されやすい傾向があります。息が上がりすぎて苦しくなることもなく、かといって楽すぎることもない。「会話ができる程度の運動」が長時間続くため、心肺機能の維持や、血圧・血糖値の改善といった生活習慣病対策としても理想的な強度なのです。
ゲートボールとは違う「動的」な刺激がホルモンを活性化
シニアのスポーツといえばゲートボールやグラウンドゴルフが有名ですが、これらは自分の番が来るまで待機する時間が長く、運動としては「静的」な側面があります。一方、ウォーキングフットボールは試合中ずっと動き続ける「動的」なスポーツです。
常に状況が変化し、味方と声を掛け合い、ゴールが決まればハイタッチをして喜び合う。この一連のアクションは、ドーパミン(やる気)やセロトニン(幸福感)といった脳内ホルモンの分泌を促します。
特に「チームで何かを成し遂げる」という達成感は、定年退職後に失われがちな社会的欲求を満たしてくれます。「ナイスパス!」「ありがとう!」と声をかけられることで、自己肯定感が高まり、メンタルヘルスの向上にも寄与します。身体の健康だけでなく、「心の若々しさ」を取り戻すための特効薬と言えるでしょう。
始める前に知っておくべき「現場のリアル」と準備

- 【体験談】翌日はお尻とすねがパンパンになる理由
- シューズ選びが命!スパイク禁止で何履くの?
- 孫とも対等に戦える!多世代交流という新たな喜び
- どうやって探す?地域のサークルと体験会の見つけ方
【体験談】翌日はお尻とすねがパンパンになる理由
これから始める方に、きれいごとだけでなくリアルな警告もお伝えしておきましょう。初めてウォーキングフットボールに参加した翌日、多くの60代の方が「筋肉痛」に見舞われます。しかも、太ももではなく、お尻(大殿筋・中殿筋)とすね(前脛骨筋)がパンパンになります。
これは「ペンギン歩き」とも呼ばれる独特のフォームに原因があります。走らないように意識して急いで歩くと、膝をあまり曲げずに骨盤を使って足を前に出す動きになります。これが普段使っていない股関節周りのインナーマッスルを強烈に刺激するのです。
「たかが歩くだけだろう」と侮っていると、翌朝ベッドから起き上がる時に驚くことになります。しかし、これはポジティブな痛みです。普段の生活では眠っていた筋肉が目覚めた証拠であり、続けることでヒップアップ効果や、歩行姿勢の改善につながります。最初の数回はこの筋肉痛があることを覚悟し、プレー後のストレッチを入念に行うことをお勧めします。
シューズ選びが命!スパイク禁止で何履くの?
ウォーキングフットボールでは、安全のためサッカースパイクの使用は基本的に禁止されています。スパイクの裏にある突起(スタッド)は、接触した際に相手を怪我させるリスクがある上、踏ん張りが効きすぎて自身の膝への負担にもなるからです。
では、何を履けば良いのでしょうか。屋外の人工芝や土のグラウンドで行う場合は、「トレーニングシューズ(トレシュー)」と呼ばれる、裏が細かいゴムのイボイボになっている靴がベストです。サッカーショップやスポーツ用品店で「フットサル用」や「トレーニング用」として売られています。
屋内の体育館で行う場合は、底が飴色などのフラットな「フットサルシューズ(インドア用)」が必要です。底が黒い靴は床に色をつけるため禁止されている会場も多いので注意してください。
ランニングシューズでも参加は可能ですが、靴底が厚く、横方向の動きに弱いため、捻挫のリスクが少し高まります。本格的に続けるなら、足裏の感覚が掴みやすく、安定性の高いフットサルシューズを一足用意するのが賢明です。数千円で買えるもので十分です。
孫とも対等に戦える!多世代交流という新たな喜び
ウォーキングフットボールの会場に行くと、60代、70代の方だけでなく、小学生や女性、障害を持つ方など、実に多様な人々が一緒にプレーしている光景に出会います。これが「ユニバーサルスポーツ」としての真骨頂です。
通常のサッカーでは、体力差があるため孫とおじいちゃんが本気で勝負することは不可能です。おじいちゃんが手加減をするか、孫に抜かれて終わるかのどちらかでしょう。しかし、ウォーキングフットボールなら対等に戦えます。いや、むしろ経験豊富なシニアの方が、ポジショニングの妙で子供たちを手玉に取ることさえあります。
「おじいちゃん、今のパスカッコよかった!」と孫世代に褒められる体験は、何物にも代えがたい喜びです。地域の子供たちと顔見知りになり、「◯◯さん、またやろう!」と声をかけられる。会社という肩書きを外した後の、フラットで温かい人間関係がそこには待っています。この多世代交流こそが、孤独感を解消し、社会とのつながりを保つ命綱となるのです。
どうやって探す?地域のサークルと体験会の見つけ方
「ウォーキングフットボールを始めたいけれど、どこで体験できるのか分からない」という方は意外と多いです。まず確認したいのは、日本サッカー協会(JFA)の公式サイトや、各都道府県サッカー協会のホームページです。JFAの「ウォーキングフットボール」ページでは、各地で行われているイベントや体験会の情報が掲載されており、全国の開催予定を探すことができます。
また、JリーグやJFLのクラブでも、地域貢献活動として健康づくりをテーマにしたイベントを行っていることがあり、その中にウォーキングフットボールが含まれている場合があります。実施状況はクラブごとに異なるため、お住まいの地域のクラブサイトにある「スクール」や「イベント」欄をチェックしてみると良いでしょう。
さらに、SNSも情報収集に役立ちます。FacebookやInstagramで「#ウォーキングフットボール」や「#(地域名)」と検索すると、地域のサークルや愛好会の活動が見つかることがあります。ただし、見学の可否や必要な持ち物は団体ごとに違うため、興味を持ったら事前に問い合わせて確認すると安心です。初心者歓迎のところも多いため、まずは気軽に連絡してみるところから始めてみてください。
まとめ
ウォーキングフットボールは、60代の私たちが直面する「体力の低下」「怪我への恐怖」「社会的な孤独」といった課題を、楽しみながら一挙に解決してくれる画期的なスポーツです。
最後に、今日からできる最初のアクションをお伝えします。
それは、「明日の通勤や散歩で、10メートルだけ『早歩き』をしてみる」ことです。
ただし、ただ早く歩くのではなく、「片足が必ず地面についているか」を意識してください。すねの筋肉が張り、お尻に力が入る感覚が分かるはずです。それが、新しい自分へのキックオフです。
その感覚が掴めたら、次はぜひ、実際のフィールドに立ってみてください。そこには、かつて感じた芝生の匂いと、ボールを蹴る心地よい感触、そして新しい仲間たちの笑顔が待っています。
「もう年だから」と諦める必要はありません。歩くことができれば、あなたはいつまでも現役のフットボーラーなのです。さあ、新しいスパイク代わりのシューズを検索して、人生の後半戦を楽しみ尽くしましょう。


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